ルミナは鳥を追いかけていた。

その鳴き声が聞きたくて、ただ、ただ必死に。
(早く、早く…!)
早く捉まえないと
(冬に、なっちゃうんだ)
遠くへ、行ってしまう前に。ねぇ。



(僕のために、鳴いて)



[ an intermezzo ]



「ねえ、エルモさん、あの鳥の名前はなんていうの?」

幼子は引かれている方とは逆の手を空に向けて問う。
その小さな手を引いていた尼僧は、幼子の指す方を仰ぎ見た。

「何?どこかしら」

「あれだよ、ほら、木の上!この声は、あの鳥の鳴き声でしょ?」

尼僧は耳を澄まして、聞こえる音を探した。
風の音、遠くに見える街の、鐘の音。
その中に、美しく鳴く鳥の声を聞いた。

「この声は、小夜啼鳥だわ」

幼子は、聞き慣れない単語に首をかしげた。

「サヨナキドリ?」

握った手をさらに強めて、幼子は反復する。
尼僧は彼に優しく微笑んだ。

「そう。小さな夜に、啼く鳥と書いて、小夜啼鳥」

「ふうん…」

幼子はそのまま、下を向いて何か考え込んだようだった。
すると唐突に顔を上げ、空に向かって大声で叫んだ。

「サヨナキドリ!僕のために歌ってよ!」

(そうしたら、僕はさみしくない、から)

おとうさんも、おかあさんも、僕を残して、遠い遠い処に行ってしまったんだって。
だけど、君が歌ってくれたら、僕はきっと、さみしくないよ。
僕がさみしがったら、おとうさんとおかあさん、悲しんでしまうから。

だから、ねえ 小夜啼鳥(ナイチンゲール)



「歌って、…よ」



風が大気を、幼子の髪を、揺らして駆け抜けていった。
鳥の羽ばたき、舞い降りる一枚の落とし羽。

もう空にも、木の上にも、なんの鳥の姿も見えなくなっていた。

灰色の空が、微かに青みがかって、歪んだ。
瞳が熱い。そう思ったら、頬を水が伝って、地面に落ちて行った。

「ルミナ君」

尼僧は幼子を抱き締めた。
今まで我慢していたものが、小さなその体から溢れてくるようで。



ルミナは泣いた。



疲れて眠ってしまうまで、ずっと泣き続けた。
シスターエルモの、腕の中で。





尼僧は歌っていた。
幼子にささげる、セレナーデ。





あなたが歌えというのなら、私は永遠に謳い続けよう。
あなたが幸福を求むなら、私は喜んで旅に出よう。
だから、どうか私の愛した最後の王様。
私のことを、忘れないで。
あなたが病んだら、謳うから。あなたが迷ったら、謳うから。
私のことを、忘れないで。










閑話 終